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Kさまのこと

21.08.31

木々
Kさまがクリニックに初めていらっしゃったのは3年前のことでした。

私より10歳上のKさまは
きれいにお手入れされたショートカットが似合ってらっしゃるクールビューティー、知的でハキハキしたオシャレな方だな、というのが最初の印象でした。

すぐに、とってもピュアで素直なかわいい方だということが分かりました。人見知りでなかなか人に心を開けない私も、初対面から打ち解けてお話できました。

過去に色々な美容クリニックに通われていて、まずは他院での治療の修正から始めさせて頂きました。

治療効果をとても喜んでくださって、その後、足繁く通ってくださるようになりました。

肌が薄くて人の何倍も内出血が起きやすいKさまの治療はとても緊張するものでした。注意していてもどうしても内出血が起きてしまうことがありましたが、いつも最上級に褒めて下さいました。

Kさまがくださった感想です。

『他院等でヒアルロン酸注入をやっていただきましたが、はじめて信頼できる先生に出会うことが出来ました。デザイン性、技術、全てにおいて満足しました。カウンセリングが本当にしっかりしていただけるので安心です。先生の説明も丁寧でわかりやすいです。費用対効果的にも満足です。ありがとうございました。これからも通わせてください。』

『色々な美容皮膚科さんでヒアルロン酸注入を行ったがココがイチバン上手でした!!先生の技術力、デザイン力は私の知る中でベスト1です。』

『毎回丁寧でわかりやすい説明をしていただいてます。自分の気になる所と先生(他者)から見た気になるところをうまく合わせてカバーして頂き、施術方法のオプションも教えて頂き勉強になります。施術はいつも安定の技術だと思います。客観的な先生の御意見いつも助かります。Thank you!』

『Perfect!! Excellent!! Effective!! Love it!!』

ご自分で色々な情報を仕入れては
「私に〇〇っていう治療は合うと思う?」
など、どんどん提案されて、好奇心が旺盛でした。

明るくて、聡明で、ハッキリものを言う竹を割ったような性格で、好き嫌いがハッキリしていて、物事の優先順位がクリアで、オシャレでユーモアがあって、感情表現が豊かで、人を愛し、動物を愛し、いつも元気に人生を楽しんでいる、そんな唯一無二の方でした。

Kさまは50歳の時に悪性リンパ腫を患われていて、それは寛解されていたのですが、昨年、なんとまた、別の悪性リンパ腫が発症して、その治療を受けられることになりました。

「がんは辛くないけど、治療の副作用が辛い。副作用があんまり辛かったら、今回は頑張れないかもな。」
と仰っていました。

がん治療でしばらく通院できなくなるから、入院までにこの治療をしておきたい。退院して白血球が立ち上がったら、この治療をやりたい、と治療計画を練られて、計画通りに治療をお進めになって入院されました。

そして、予定より早く、クリニックに戻っていらっしゃいました。

「もう辛いのは嫌だから治療、途中で辞めちゃった」
とサラッと仰っていました。
優先順位がハッキリしているK様らしいなぁ…と思いつつ、心配でした。

この頃から右手の指が腫れて痛い、動かしにくい、と仰るようになりました。
指の状態がどんどん悪化して、検査と治療のために入院されたのが8月です。
「バカンスのつもりで入院して来る。3週間後に退院したらすぐ来るから!」
と仰って、退院したときのためにACRSをストックされました。

ですが、3週間経ってもKさまは来院されませんでした。
痛みと腫れは左手、続いて足にも広がり、お箸を持つことはもちろん、歩くこともできなくなってしまったのです。
あらゆる検査をお受けになりましたが、原因は分からないままでした。

歩けなくなったと伺って、ベッドの上でも集中できて、手を細かく動かさなくて済むことはないかと考えて、ジグソーパズルをお送りしました。

私は妊娠中、切迫流産になって、ご飯とトイレの時以外は立ってはいけない、寝たきり生活になりました。
この時は本を読んでもテレビや映画を見ても、全然頭に入って来なくなりました。インプットの回路がショートしてしまったのです。
なにかアウトプットできるものを、と刺繍をやったらはまって、すごく救われた経験があったので、
ジグソーパズルが私の刺繍のようになれば良いなぁと思いました。

入院ベッドの小さなテーブルにも乗るものを、と小さめのパズルを選んだら、なんと「世界最小のピース」だったそうで、
「老眼で見えない!これ、私に対する挑戦?」
と仰っていました。
動かしにくい手で、とても難しかったようで、
もっと別のものをお送りすれば良かった、と後悔しました。

最初は入院生活もKさまらしく明るく過ごされていたようです。

看護師さんから肌が綺麗だと褒められて、
「お金かかってんのよ。大人の特権よ。」
と言ったら看護師さんが目を白黒させてた、と面白く教えてくださっていました。
「すぐに病棟の若い看護婦さんを取り込んでいた」と後でご主人から伺いました。若い看護師さんを相手に楽しいことを言って、アハハハと豪快に笑うKさまの様子が目に浮かびます。

しばらくは入院の様子や検査結果などを連絡してくださっていましたが、こちらからメッセージをしても途絶えるようになりました。
お電話をすると、すすり泣いて、無言が続くようになりました。
あまりに辛そうで、返す言葉が無くなってしまいました。

身体中の痛みが強く、四肢を全く動かすことができなくなってしまった上に、コロナ禍でお見舞いも制限されて、精神的にも本当にお辛かったと思います。

しばらくしてKさまの携帯から、連絡が入りました。
ご主人からで、Kさまが両手が全く動かせなくなってしまい、電話に出る事やLINEの返信は出来なくなってしまったこと、
回復したら連絡します、とのことでした。

あんなに明るいKさまに、神様はなんでこんな試練をお与えになるのだろう…と思いました。

Kさまと一文字違いの別の患者様がいらっしゃるのですが、その方の名前を予約表で見るたびに、「あれ!?Kさま!!私を驚かせようとして退院の連絡せずに予約取られたのかな!?」と嬉しくなって、すぐに別の方だと気付く、というのが続きました。

そして4ヶ月後の先日、Kさまの携帯から連絡が入りました。
ご主人からで、Kさまが亡くなられた、とのことでした。
もしかしたら、と感じた悪い予感が当たってしまいました。
お顔を見てあげて下さい、とお声掛け頂いたので、仕事が終わってからご自宅に伺わせて頂きました。

ご自宅は高層マンションの高層階で、スッキリと清潔感があるモダンなお宅でした。
私が持っているKさまの印象通りのお宅で、ご主人は、全てKさまの趣味だと仰っていました。

Kさまとは診療の時に色々なお話をしましたが、ご家族の話はあまり伺ったことがありませんでした。お宅に伺ってご主人を一目拝見して、あぁ、良いご夫婦だったんだなぁ、とても愛されていらっしゃったんだなぁと感じて、ホッとしました。

Kさまは「人付き合いの天才」だったそうです。
そうだと思います。うちのスタッフたちも皆、Kさまのことが大好きでした。Kさまがクリニックにいらっしゃると、雰囲気がパッと明るくなるので、離れた診察室に居ても「あ、Kさま、いらっしゃったな」と察知できる程でした。

2匹の犬を飼っていらっしゃって、その子達をそれはそれは大切にされていたそうです。Kさまを〇〇ちゃん(ワンちゃんの名前)ママ、として慕うワンコ仲間も大勢、いらっしゃったそうです。

分け隔てのなくオープンなKさまはゲイの方達からも人気で、「姫」と呼ばれて一緒にカラオケに行かれたりしたそうです。

Kさまは人を見る特殊能力のようなものがあった、とご主人がおっしゃっていました。一瞬で自分に合う人、そうじゃない人の区別をされたそうです。
「僕もいつの間にか、彼女のフィルターを通して人を見るようになっていました」
と仰っていました。

私のことと、スタッフの一人を最初からとても気に入ってくださって、良くして下さいました。
素直で可愛いスタッフのことはともかく、愛想の良くない私のことを、どうしてこんなに慕ってくださるのかなぁ、と思っていましたが、Kさまの目から見て、自分に合う人だと感じて下さったようです。

食べ物の好き嫌いが多くて玉ねぎが嫌いだったこと、
お料理はほとんどされなかったこと、
英語が堪能だったこと、
整頓好きだったこと、
カラオケが好きだったこと、
ジャニーズが好きだったこと、
雑誌の読者モデルをされていたこと。
私が知らないKさまの色々な顔が見えました。

Kさまは最後、健康の大切さをSNSなどで繰り返し仰っていたそうです。

お別れした夜、夢で、Kさまが
「あれ、先生?死んだと思った?そんな訳ないじゃん!」
といつものキラキラした笑顔で笑っていらっしゃいました。
ご主人にそれをお伝えすると、
「夢でもはしゃいでましたか、彼女らしいです」
と仰っていました。

寂しくなります。
さようなら、Kさま。

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池上 彩子

Saiko Ikegami.M.D., Ph.D.

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美容皮膚科医・医学博士

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